乱読一風

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RANGE レンジ 知識の「幅」が最強の武器になる

早期教育から高度な専門性まで今の常識を疑ってみる

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さて、今回は実務書的な心理学的な研究ノートである。

といっても結構なボリュームがあり、心理学的観点からの話もてんこ盛りなので、読むのは少し時間がかかった。が、内容は素人にもわかりやすく時間はかかってもよみやすかった。

私は、基本あんまりハウツー的な実務本はあまり読まない。途中で飽きちゃうのである。筆者が手を変え品を変えこれでもかと持論を展開するのに飽きてしまって、「はいはい……わかった、わかった、わかりました」といった気持になり、最後まで読み切れない。この本は、豊富な事例と心理学的な調査をもとに早期教育や高度な専門教育が陥りやすい間違えや限界を指摘している。ぜひぜひこれから子育てをする方、今現在子育て中の方、将来に迷っている若者に、読んで欲しいなあ。

目次を拾ってみよう。

第一章 早期教育に意味はあるか

第二章「意地悪な世界」で不足する思考力

第三章 少なく、幅広く練習する効果

第四章 早く学ぶか、ゆっくり学ぶか

第五章 未経験のことについて考える方法

 

このような感じで第十二章まである。早期教育やアーリースタートの弊害、高い専門性のある職業や研究の限界を突破したのは、様々な経験をして専門分野をいくつも渡り歩いた人々であり、門外漢の発想とアイディアであったことが豊富な事例とともに語られている。タイガーウッズや日本でいえば藤井聡太さんあたりか、早期からの英才教育はごくごく限られた分野でごく限られた人に対しては有効であるが、おおよその場合、様々な経験をして本人自らが選び取った職業が成功への可能性を広げると筆者は力説している。大切なのは真剣にチャレンジをすること、向いていない、違ったと思ったら、やめて次のチャレンジをすること、アマチュアである、つまり狭く高い専門性を持たないことである。もちろん、狭く高い専門性を持つ人間は必要であり、新しい技術や発見には欠かせないが、それと同じくらい、多様性も必要だという事なのだ。

今の日本の社会制度では(以前よりだいぶ緩和されてはきたが)まだまだ転職は、マイナスのイメージとなるし、30歳間際まで定職についてないとあやしい人に認定されてしまうような風潮がある。この本に登場する人々は(有名、無名問わず)全く違う世界へ次から次へと飛び込んでいっている。そして本人も思いもしなかった分野で成功し、それまでの経験はすべて無駄ではなかったと証言している。遅いスタートは問題ではなく、知識の不足や不十分な技能は補えるものだったのだ。

個人的に面白かったのはスペースシャトルチャレンジャー号の炎上事故の検証である。硬直した組織は門外漢を受け付けず、データに載らない違和感を追求せず、狭く高い専門的な見方のみで判断を誤ってしまう。

これを今のコロナの日本の状況と置き換えてみる。感染症の専門家にしてみれば、飛沫感染であるなら人と人との接触を辞めれば、感染は収まる。ゼロになるまでロックダウンをすればいいという結論になるのかもしれない。しかし、経済的な問題、国民生活の維持の問題、心の持ち方の問題、子供の成長への影響など、多様な観点から見なくてはならないが、感染症の専門家にはそんなことはわからないだろう。感染症ではないが厳しい状況を知っているほかの誰か、が必要になる。

アナロジーは近年心理学の分野で検証されているようだが、ほかのことに置き換えて考えてみる、まったく違った事象でも似たケースはなかったか考えてみる、そこから思いかけないアイディアが生まれてくるのである。

この作者はデイビット・エブスタインさん、アメリカの方である。彼自身も様々職業を経験しており、とにかく深く又は高くなくても幅広い知識と経験が大いに役に立つと情熱的に語っている。その熱量になんか感動しちゃうのですよ。ホント、いろいろ面白かった。